お金の寺子屋

ドルコスト平均法を正しく理解する

ドルコスト平均法とは

ドルコスト平均法と言うのは、定期的に、一定金額ずつ金融商品を購入する、積立投資の戦略の一つです。

こうする事によって、平均取得単価を押し下げる事が期待できる、と説明されます。
理屈は単純で、毎回の購入金額を固定する事で、値段が高い時には購入数量を抑えて、値段が安い時に沢山の数量を購入する事が出来るからです。

生活で使える知恵

ドルコスト平均法は、投資だけでなく、車のガソリンを入れる場合など、生活に応用する事も出来ます。

例えば、ガソリン価格が、150円、160円、140円、160円、140円と推移した場合について考えてみましょう。
この時、毎回20リットルずつ給油するのと、毎回3,000円ずつ給油するのとでは、どのような違いがあるでしょうか?

まず、毎回20リットルずつ給油した場合についてです。
この場合、ガソリン価格が150円の時は、3,000円を払います。
160円の時は3,200円、140円の時は2,800円払いますから、5回合計で、100リットル給油して、15,000円払う事になります。
つまり、ガソリンの平均単価は、1リットル当たり150円です。

次は、毎回3,000円ずつ給油した場合についてです。
この場合、ガソリン価格が150円の時は、20リットルを給油できます。
160円の時は18.75リットル、140円の時は約21.43リットル給油払できますから、5回合計で、15,000円払って、約100.36リットル給油する事になります。
つまり、ガソリンの平均単価は、1リットル当たり約149.47円です。

まぁ、ガソリンスタンドに行くコストなどを考慮していませんので、生活に役立つかどうかは微妙ですが…。

投資に応用すると

さて、いよいよ本題です。
下の例を使って、1回きり投資した場合と、ドルコスト平均法で投資した場合とでは、どのような違いがあるかを考えてみたいと思います。

【図1】A株とB株の値動き

図1は、A株とB株の値動きを表しています。
どちらも100円からスタートして、A株は10年後に210円に、B株は10年後に50円になっています。
ですから、当然、最初の年に1万株買う、つまり100万円を投資すると、10年後には、A株は210万円、B株は50万円になる計算です。

では、もし、B株は毎年10万円ずつ投資した場合、どうなるでしょうか?
それを表したのが図2です。

【図1】A株とB株の損益

何と、10年後には約220万円になっていて、A株を100万円買った場合よりも、パフォーマンスが高くなっています。

ドルコスト平均法すごい!!

…と思われた方は、ご注意を。

と言うのも、ドルコスト平均法を説明して投資を勧める営業マンは、必ずと言っていいほど、このパターンの値動きを例にドルコスト平均法のメリットを熱弁するからです。

気をつけなくてはいけない事

何故、ドルコスト平均法で投資したB株のパフォーマンスが、A株のパフォーマンスを上回ったのか?

その答えは、B株の10年目の値動きにあります。

B株の10年目の株価は50円ですが、9年目の株価は10円です。
つまり、1年で5倍になっている訳です。

そりゃぁ、下がり続ける株を買い続けて、いつか短期間に5倍に反発すれば、儲からない方がおかしいです。

しかも、最初の2ヵ月に投資した20万円こそ値下がっていますが、2ヵ月後~9ヵ月後に投資した80万円は全部値上がっているという極端さ…。

半値になっても儲かるのなら、半値未満に下がった局面である程度の数量を拾って、運良く大きく反発しなくてはいけないというのは、冷静になれば誰でも分かります。
極端な例で煽る営業トークに乗せられて、「ナンピン買いの素寒貧」になってはいけません。

2つ目に気をつけたいのは、A株をドルコスト平均法で買った時にはどうなるか?という事です。

それを示したのが図3です。

【図3】A株の損益

一括投資だと、損益が210%になるのに対して、ドルコスト平均法だと、損益が約150%と低くなっています。

リスクにさらされている金額と時間(リスクの量)が一括投資に比べて小さいので、リターンが小さくなるのは当たり前ですが、購入後に値段が上がった時に収益性が低くなるという点は、踏まえておくべきでしょう。

3つ目に気をつけたいのは、保有コストです。
ドルコスト平均法で上場株式を買うのなら、これは特に気になりませんが、投資信託など、保有コストがかかるものを買う際には、このコストは馬鹿になりませんので、注意が必要です。
なぜなら、ドルコスト平均法で投資するというのは、そもそも長期投資を前提としていているからです。

例えば、信託報酬が1%の投資信託に10年投資した場合について考えてみますと、
仮に、全期間運用成績が±0であった場合、100万円投資すると、10年後の資産は904,382円になります。
20年だと817,907円、30年だと739,700円です。

そう考えると、投資信託で積み立て投資をする場合、余程信託報酬が少ないものを選ぶべきだと分かりますし、コストが見えない変額保険や外貨建て保険で積み立てるのは論外だと思います。

ドルコスト平均法の本質

ドルコスト平均法の優れた点は、自動的に買付量が調整される事です。
価格が高い時には購入数量を抑えて、価格が安い時に大量の数を買う事になりますから、価格が下がると大量の数量を買う事ができて、価格が反発した際の戻りが大きくなります。

例えば、一括投資で100万円を投資して、1,000円×1,000株を購入すると、将来株価が500円になった時に、資産は50万円になります。
しかし、下がった時に大量の数を買って2,500株購入する事ができれば、将来株価が500円になっても、500円×2,500株=125万円となって儲かる、と言う理屈です。

要するに、下がれば下がるほど数量を買い増すナンピン買いが、ドルコスト平均法の正体です。

このような投資方法のメリットは、強制的に下がった時に買う事ができる点です。
要は、購入をルール化してしまう事で、値段が下がった時に狼狽売りしたり買い控えたりする、或いは、上がった時に調子に乗って買い増すような投資行動を防ぐ効果があります。
これが、投資に詳しくない人にとってオススメの投資方法だと言われる所以です。

ただ、きちんと知っておかなくてはいけないのが、ドルコスト平均法は、万能な投資方法ではないという事です。
相場の変動次第で、結果論として、ドルコスト平均法で投資すれば良かったという場合もあれば、一括で投資すれば良かったという場合もあります。

そして、ドルコスト平均法の方が儲かる条件は、「一旦下がってから、反発する」場合です。
それも、投資期間のうち、序盤から中盤までは下がれば下がるほど良くて、終盤で反発すれば大成功という投資スタイルですから、損切りがしにくいです。
反発することが投資の前提となっていますから、反発するはずという心理的なバイアスがかかる訳です。

事前に撤退ラインを決めておく事は、投資の絶対条件だと思いますが、ドルコスト平均法は、その設定や決断がしにくい投資方法です。
そう考えると、ドルコスト平均法を投資の初心者に勧めることは、果たして良い事なのか、疑問があります。

大事なのは、出口戦略

投資において、「いつ売るか」を決める事はとても重要です。
先程、ドルコスト平均法は、「序盤から中盤までは下がれば下がるほど良くて、終盤で反発すれば大成功という投資スタイル」と言いましたが、「終盤」って、いつなんでしょうか?

とりあえず、老後資金を準備するために積み立て投資をするから65歳まで積み立てる、というのはダメです。
何故なら、その条件だと、60歳から65歳の間に上昇するものに投資しなくてはいけないという事になるからです。
そんなの予想して投資するなんて、無理ですよね。

だから、自分で終盤を決めなくてはいけません。
要するに、ここまで上がったら売って手仕舞うというラインを決めて、欲張らずに売る意思が必要です。
株価ベースでも、金額ベースでも良いので、いつかまとまった金額を売る必要があります。

例えば、30歳から毎年3万円を積み立てると、60歳時点で投資額は1,000万円を超えます。
これが100万円値下がるというのはよくある話で、もしそうなると、約3年分の積立額が吹き飛ぶ訳で、来月ドルコスト平均法で3万円投資すると安心、という事にはなりません。

なので、積み立てを始める年齢や金額、投資余力等にもよりますが、例えば65歳から取り崩したいのであれば、55歳くらいから出口戦略を検討した方が良いのではないかと思います。

年齢を重ねるごとに、リスク資産の割合を減らしていくというのが、ファイナンシャルプランニングの基本です。
積み立て投資をしてリスク資産を増やしていくのは、ある程度の年齢になると、避けた方が良いです。
だからこそ、出口(換金)のルールをきちんと決めて、余裕資金の範囲で投資を行いましょう。

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